大判例

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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)688号 判決 1982年2月25日

控訴人

株式会社日高カントリー倶楽部

右代表者

高橋修一

右訴訟代理人

唐澤高美

小又紀久雄

矢島宗豊

被控訴人

矢生光繁

右訴訟代理人

青木逸郎

小澤淑郎

竹原孝雄

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  求める判決

一  控訴人

主文第一ないし第三項と同旨。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  原判決主文第一ないし第三項を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、原判決別紙第二目録記載の額面株式一二四株の株券と引換えに無額面株式株券一株券一二四枚を発行し、これを被控訴人に交付せよ。

控訴人は被控訴人に対し、前記目録記載の額面株券一二四株を無額面株式に変更した旨株主名簿の書換手続をせよ(当審において請求を減縮)。

訴訟費用は第一、第二審とも控訴人の負担とする。

第二  主張

当事者双方の主張は、次に付加・補正するほか原判決事実欄第二に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三枚目裏七行目末尾に行をかえて「ただし、控訴人主張のとおり、控訴人の発行しうる株式数は定款で額面株式一、二八〇株、無額面株式一、七〇〇株と定められており、昭和五三年九月当時、発行ずみの株式を差引くと控訴人の発行しうる無額面株式は一二四株であつた。」を加える。

二  原判決三枚目裏九行目の「持主」を「株主」と、同四枚目表二行目の「変更された」から同一一行目の「変更されたから、」までを「変更されたというべきところ、その後、前述のとおり、当時控訴人の発行しうる無額面株式は一二四株であつたことが明らかになつた。しかし、被控訴人は控訴人からそのことを知らされず、しかもそれを知る由もなかつたため、右一五八株全部が変更できるものと信じて前記請求をしたのであるから、請求に際しとくに変更すべき額面株式を特定しなくても、右請求はその変更できる一部について効力を生ずる。したがつて、右株式一五八株のうち一二四株が無額面株式に変更された。」とそれぞれ改め、同表一一行目の「原告は、」の前に行をかえて、「(四)よつて、」を加える。

三  原判決五枚目表九行目の「(四)項のうち」を「(三)項のうち、被控訴人がその主張のとおり控訴人の額面株式一五八株の株主であること」と改め、同裏四行目の「できなかつた。」の後に「株式はいつたん株券と結合して発行されると会社とは全く関係なく転々流通する性質のものであるから、会社は請求者の指示がなくては請求により転換すべき株式を特定することはできないのに、被控訴人は控訴人の発行限度を超えて本件転換請求をするのにあたり、転換すべき株式を特定しなかつたものである。」を、同六枚目裏二行目の「流通場」の後に「裡」をそれぞれ加える。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因(一)、(二)の事実及び(三)の事実のうち、被控訴人が原判決別紙第一目録記載の控訴人の額面株式一五八株の株主であること、控訴人が右額面株式一五八株を無額面株式に変更するよう請求した内容証明郵便が昭和五三年九月五日控訴人に送達されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二弁論の全趣旨によれば、被控訴人がその所有する額面株式一五八株を無額面株式に更変更するよう控訴人に対し請求した当時、被控訴人は控訴人が発行しうる無額面株式が一二四株に過ぎないことを知らず一五八株全部について変更できるものと信じて右の請求をしたことが認められ、これによれば、被控訴人が当時このことを知つていたならば右一二四株についてのみ変更請求をしたであろうことが推認されるから、前記変更請求は変更できる一二四株についてなされたものというべきである。

三そこで、抗弁について検討するに、控訴人は、額面株式と無額面株式の相互転換請求は、転換しようとする株券を株式会社(以下「会社」という)に提出してすべきところ、被控訴人は、額面株式から無額面株式への転換請求をするにあたつて、転換しようとする株券を控訴人に提出しないでしたのであるから、被控訴人のした転換請求は無効である旨主張し、被控訴人が転換請求をするにあたつて、転換を求める株券を控訴人に提出しなかつたことは、当事者間に争いがない。

会社は額面株式の株主と無額面株式の株主に対して、それぞれの株式に対応する別種の株券(商法二二五条参照)を発行することを要し、しかも、会社はその成立後あるいは新株の払込期日後遅滞なく株券を発行することは法の要請するところである(商法二二六条一項)。また株式の記載事項を定める商法二二五条は、額面株式については「一株ノ金額」の記載を要求しているが、これは額面株式については一株の金額(株式の額面)の記載のある株券を、無額面株式についてはその記載のない株券をそれぞれ発行するのが法の要請であることを示すものである。ところで、昭和四一年法律八三号による商法の改正に際して、新たに二一三条の規定を設けて、株主の請求による額面株式と無額面株式の相互転換の制度が認められるにいたつたのは、主として、額面株式と無額面株式の両者を有する株主がその双方の株券を併合しようとする場合に、右にあげた法の要請があり、そのままでは株券の併合ができないため、株券併合の前提として株主に右転換請求権を認めたのである。このような法の趣旨を考えると、額面株式と無額面株式の間に転換が行われた場合にも、会社は転換により生じた株式につきそれに対応する新株券を遅滞なく発行しなければならないことは当然であるが、他面、会社が新株券を発行するに際しては、旧株券を回収する必要がある。そうでないと、一個の株式について二重に株券が発行されることになり、ひいては一個の株式が二重に譲渡され、株券の転々流通性に障害を生ずるおそれがあるからである。したがつて、この場合の新株券の発行は新旧株券の引換えという形式をとることとなり、この株券引換えの確実を期するために、株主が転換の請求をするには株券を会社に提出することを要し、株券の提出が転換請求の要件であると解するのが相当である。

もつとも、株主の請求による額面株式と無額面株式の相互転換について現行商法二一三条一項(昭和五六年法律七四号による改正前のもの)は、その請求にあたり株券を提出すべきことを定めていないが、もともと転換請求は株主の必要によつて行われるのであるから、その請求にあたり株券の提出を要求することは株主に対して格別の不利不便を強いるものではなく、また転換請求をしようとする株主の権利行使を不安定とするものでもなく、かえつてこれより二重株券の発行の危険が防止され、株券の転々流通性が保護されることにもなるのであるから、類似の場合である転換株式の転換請求に関する商法二二二条ノ五の規定に準じ、これと同様に取扱うべきである。

右のように転換請求の要件として株券の提出を要するとすることは、株券の非設権証券たる性質とはかかわりのない事柄であつて、理論上は、まず転換の効力を生じ、ついで会社がこれによつて変更された株式を表章する株券を発行するものとみるべである。これに対して、転換株式の転換の場合には、転換前の株式と転換後の株式とでは株主権の権利内容が異なるから、転換後旧株券により株式が譲渡されるときは、譲受人が不測の損害を被るおそれがあるので、転換に際し会社は旧株券を回収することを必要とするが、額面株式と無額面株式とは両者の株主権の権利内容になんらの差異はないのであり、株券上の記載が額面となつているか無額面となつているかに重要性を認める必要はなく、転換後旧株券により株式が譲渡されても、譲受人に不測の損害を与えるおそれはないから、転換請求の意思表示のみにより転換の効力を生ずるものとしても支障はないとする見解がある。しかしながら、前述のとおり、額面株式と無額面株式との間に転換が行われたときも会社は遅滞なく転換後の株式についての新株券を発行することを要するのであるから、所説によつても、結局、会社は遅滞なく株主に対し旧株券の提出を求めて株券の引換えをしなければならないことになるのであるが、そうであるとすれば、転換請求の要件として株券の提出を要するものと解するのが、むしろ合理的であり妥当でもあるというべきであり、右見解は採用の限りではない。

したがつて、控訴人の抗弁は理由がある。

四次に再抗弁について検討する。

再抗弁(一)は、控訴人が昭和五三年八月頃被控訴人の口頭による株式相互変更請求に対し株主が反対しているので変更できない旨回答して拒絶し、被控訴人が前記のとおり書面による変更請求をしたのに同年九月二九日臨時株主総会を開催して相互変更禁止条項を追加する定款変更の決議をなしたが、このような状況のもとでは、かりに被控訴人が変更請求にあたり株券を提出したとしても控訴人に受領を拒絶されることは明らかであつたと主張するものであるが、たとえ前記のような事情があつたからといつて、直ちに控訴人が株券を提出してされた転換請求の法的効果を否定し、拒絶することはできないから、これを採用することはできない。

再抗弁(二)は、控訴人は被控訴人の変更請求を明らかに拒絶していたのであるから、本訴において、被控訴人のした転換請求が前記のとおり株券の提出なくしてされたから無効であると主張するのは、信義則に違反し許されないというのであるが、控訴人が被控訴人の口頭による請求に対し転換できないと回答し、請求を拒絶したからといつて、本訴において被控訴人の転換請求が株券の提出を欠き無効であると主張できないとするいわれはないから、これも採用することができない。

五してみると、被控訴人の本訴請求(当審において請求を減縮)は理由がなく、これを棄却すべきである。

よつて、右と結論を異にする原判決を取消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(岡垣学 手代木進 上杉晴一郎)

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